
GrammarlyのAI機能が引き起こした論争#
Grammarlyが2025年8月にリリースした「Expert Review」というAI機能が、著名人の名前を無断使用したことで大きな論争となり、最終的に機能停止に追い込まれました。この事件は、AI技術と著名人の肖像権・名前の使用に関する新たな問題を浮き彫りにしています。
Expert Review機能の概要と問題点#
Expert Reviewは「主要な専門家、著者、専門分野の専門家からの洞察」を提供するとうたった機能でした。ユーザーがExpert Reviewボタンを選択すると、関連する専門家の名前と認証マーク風のアイコンとともに、その専門家に「インスパイアされた」提案が生成されました。
ヘルプページのスクリーンショットでは、スティーヴン・キング、ニール・ドグラース・タイソン、カール・セーガンなどの著名な作家や学者の名前が使用されていました。機能には「専門家への言及は、Grammarlyとの提携やそれらの個人・団体による支持を示すものではない」という控えめな免責事項が含まれていました。
問題の発覚と拡大#
2026年3月4日、Wiredが故人の教授の名前を使ってライティングフィードバックを提供している機能を発見したと報じました。The Vergeの検証では、記事の下書きをいくつか機能に入力しただけで、同社のスタッフであるNilay Patel、David Pierce、Tom Warren、Sean Hollisterの名前がAI生成の提案に表示されました。
当事者らは誰もGrammarlyに自分の肖像の使用許可を与えておらず、彼らの名前で提案された内容も的外れで迷惑なものでした。例えば、「Nilay Patel」にインスパイアされたヘッドライン提案では、一般的な表現を使って「緊急性」と「興味深さ」を求める内容が表示されました。
会社の対応と機能停止#
The Vergeが問題を報じた後、3月10日にGrammarlyは専門家が機能からオプトアウトできるメールボックスを設置しました。しかし翌日には方針を転換し、Expert Review機能を完全に無効化すると発表しました。
Superhuman(Grammarlyが2025年10月にリブランドした社名)のCEOであるShishir Mehrotraは、LinkedInの投稿で「専門家の声を誤って伝えているのではないかという懸念について、専門家から正当な批判的フィードバックを受けた」と述べました。Mehrotraは謝罪し、今後のアプローチを再考すると表明しました。
法的対応と今後の展望#
SuperhumanがExpert Review停止を発表した同日、調査ジャーナリストのJulia Angwinが同社に対して集団訴訟を提起しました。訴訟では、SuperhumanがAngwinおよびExpert Review機能で名前を使用された他の人々のプライバシー権と肖像権を侵害し、ニューヨーク州とカリフォルニア州の肖像保護法に違反したと主張されています。
現在Expert Review機能は利用できない状態ですが、Mehrotraの発言によると、将来的に機能を「再構想」して再開する可能性があることが示唆されています。ただし、その際は専門家が参加を選択し、知識の表現方法を形成し、ビジネスモデルをコントロールできる仕組みを目指すとしています。
まとめ#
この事件は、AI技術の発展に伴って生じる著名人の名前や肖像の使用に関する法的・倫理的問題を浮き彫りにしました。単に公開されている情報を参照することと、その人物の名前を無断で使用してAI生成コンテンツに権威を与えることの間には明確な線引きが必要であることが示されました。
筆者の見解: この事件は、AI企業が著名人の名前や肖像を使用する際の慎重さと、事前の許可取得の重要性を示している重要な事例といえるでしょう。





