
IBMが「世界初」を宣言——半導体の常識を覆す新技術とは?#
チップの微細化は限界を迎えつつある——そう言われてきた時代に、IBMが新たな突破口を開きました。
この記事で分かること:
- 「サブ1ナノメートルチップ」という名称の正確な意味
- ナノスタックアーキテクチャの仕組みと性能向上の数値
- AI時代のSRAMスケーリング問題への解決策
- 商用化までのロードマップと関連企業
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【結論】重要ポイント3選#
- 世界初のサブ1ナノメートルノード技術を発表。IBMはこれを「7オングストロームノード」と命名しています。
- 従来比で最大50%の性能向上、または70%の省エネを実現できると同社の技術報告書は試算しています。
- 商用チップへの搭載は早ければ5年以内とIBM幹部は見通しを示しています。
詳細は以下のセクションで順を追って解説します。
サブ1ナノメートルチップとは?基本概念の解説#
「サブ1ナノメートル」という言葉を聞いて、「本当に1ナノメートル以下の物理的な構造を作ったのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。
実際には、そうではありません。
物理的な制約により、1ナノメートル未満の特徴的な構造を持つチップを安定して製造することは現実的ではないというのが業界の共通認識です。
そのため、IBMが主張する「サブ1ナノメートルチップ技術」とは——
理論上のサブ1ナノメートルチップが実現するであろう演算性能の向上を、新しいアーキテクチャで達成する技術のこと
を指します。
具体的には、IBMはこの技術を**「0.7ナノメートルノード」として定義しており、1ナノメートル=10オングストロームという単位換算から「7オングストロームノード」**とも呼んでいます。
ただし、こうしたノード名称の数値は実際の物理的な寸法とは一致しません。 これは現代の半導体業界全体に共通する慣習であり、IBMに限った話ではありません。
主な特徴と技術仕様#
ナノスタックアーキテクチャの仕組み#
今回の技術の核心は、**「ナノスタック(nanostack)アーキテクチャ」**です。
現代のチップ設計が直面している物理的なスケーリング限界を乗り越えるため、IBMはトランジスタを垂直方向にスタック(積層)し、互い違いに配置するという手法を採用しました。
ナノスタックの基本構造:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基本単位 | 2つのトランジスタを積層・接合したペア |
| 各トランジスタの構成 | 3枚のナノシート(各5ナノメートル厚) |
| ナノシートの厚さ換算 | シリコン原子約15列分に相当 |
| ナノシート間の距離 | 約9ナノメートル |
| 集積密度 | 指の爪サイズのチップに約1,000億トランジスタ |
このアーキテクチャは、IBMが2021年に発表した2ナノメートルチップノードで採用されたナノシートトランジスタ技術をベースに発展させたものです。
SRAM性能の大幅改善#
ナノスタック技術はトランジスタ集積度だけでなく、**SRAM(Static Random-Access Memory:高速読み書きが可能なメモリ)**のスケーリングにも大きな改善をもたらします。
IBM研究チームは、VLSI 2026シンポジウムにてSRAMスケーリングの40%改善を実証しました。
この改善は、スタガード(互い違い)チャネル設計によるSRAMビットセルの活用で実現されています。
- SRAMビットセル(6つのトランジスタで構成されるメモリ記憶単位)のセル高さを40%削減
- 同じチップ面積内により多くのSRAMを搭載可能に
「この40%の達成は、高帯域幅と高効率を必要とするAIワークフローにおいて、最終的に実用化されていくだろう」 — Jay Gambetta氏(IBM Research ディレクター、IBM Fellow)
業界への影響とメリット#
なぜ今、この技術が重要なのか?#
AIの急速な普及により、データセンターにおける演算能力と省エネの両立が急務となっています。
IBMのGambetta氏は、この新技術を次のように表現しました。
「単なる段階的な進歩ではなく、意味のある飛躍だ。エネルギー消費を相応に増やすことなく、コンピューティングが大幅に高性能化する未来を示している」
SRAMスケーリング問題の深刻さ#
特にAIワークロードにとって重要なのが、SRAMの改善です。
直近の世代間では、SRAMのスケーリング改善は著しく鈍化していました。
Gambetta氏によると、**3ナノメートル世代から2ナノメートル世代へのSRAMスケーリング改善はわずか数%**にとどまっていたとのことです。
今回の40%改善は、こうした停滞を大きく打ち破る成果と言えます。
業界への波及効果#
IBM Semiconductors Global R&DのHuiming Bu副社長は、次のように述べています。
「ナノシートは次世代トランジスタスケーリングの基盤となった。現在、ナノシートはすべての主要ファウンドリの3ナノメートルチップと2ナノメートルチップに採用されている」
この言葉は、IBMが過去に開発したナノシート技術が業界標準となった経緯を示しており、今回のナノスタック技術も同様の普及が期待されることを示唆しています。
商用化ロードマップと関連企業#
IBMはチップ技術の研究開発を行う企業であり、自社では商用チップを製造していません。
過去の商用化事例:
- 日本のRapidusと提携し、2ナノメートルノードチップの量産化を推進
- 韓国のSamsungとも関連技術の商用化に向けたパートナーシップを締結
- 台湾のTSMCはIBMとの直接協力なしに、独自にナノシートトランジスタを開発・採用
今後のサブ1ナノメートル技術の商用化見通し:
Bu副社長は以下のように述べています。
「サブ1ナノメートルノードのナノスタックアーキテクチャを採用した商用チップの生産は、早ければ今後5年以内、遅くとも10年以内に始まるだろう」
また、将来的にはCPUやGPUを問わず、主要ファウンドリの新たな主流技術となることを見込んでいます。
IBMは現時点で、サブ1ナノメートル技術の商用化パートナーとなる具体的な企業名は公表していません。
従来技術との違い#
| 項目 | 2nmノード(ナノシート) | 7オングストロームノード(ナノスタック) |
|---|---|---|
| 基本トランジスタ構造 | ナノシート | ナノシートを垂直積層したナノスタック |
| トランジスタ積層 | なし(平面的) | 2トランジスタを垂直に積層・接合 |
| 性能向上(対比) | 基準 | 最大50%高い演算性能(試算) |
| 省エネ向上(対比) | 基準 | 最大70%の省エネ改善(試算) |
| SRAMスケーリング改善 | 3nmからの改善は数% | 40%改善を実証 |
| 発表時期 | 2021年 | 2025〜2026年のVLSIシンポジウムで発表 |
よくある質問(FAQ)#
Q1. 「サブ1ナノメートル」は実際に1nm以下の構造を作ったということ?
いいえ、そうではありません。1ナノメートル未満の物理的構造を安定的に製造することは、様々な物理的制約から現実的ではありません。IBMはナノスタックアーキテクチャにより、仮にサブ1ナノメートルの物理構造が実現した場合に期待される性能向上を達成できると主張しています。
Q2. IBMはなぜ「7オングストロームノード」と呼ぶのか?
1ナノメートル=10オングストロームという単位換算に基づき、0.7ナノメートルノードを7オングストロームと表現しています。なお、このノード名称の数値は実際の物理的な寸法を示すものではなく、現代の半導体業界全体で使われている慣習的な名称です。
Q3. この技術はいつ市場に出るのか?
IBMのBu副社長によると、商用チップへの搭載は早ければ5年以内、遅くとも10年以内が見込まれています。ただし、IBMは自社での商用チップ製造は行わず、他の半導体企業との提携を通じて商用化を進める方針です。
Q4. AIへの活用でどんなメリットがあるの?
AIワークロードに欠かせないSRAMが40%のスケーリング改善を達成しており、高帯域幅・高効率が求められるAI処理に適しています。また最大50%の演算性能向上または最大70%の省エネ効果(いずれも同社試算)により、AIデータセンターの性能と電力効率の向上が期待されます。
まとめ:押さえておくべき重要ポイント#
- 名称の正確な理解:「サブ1ナノメートル」は物理的な寸法ではなく、性能水準を示す業界慣習的なノード名称。
- 技術の核心:ナノシートトランジスタを2つ垂直積層した「ナノスタックアーキテクチャ」により、同一面積に約1,000億トランジスタを集積。
- AI向けSRAM改善:従来比40%のSRAMスケーリング改善を実証。直近世代比の数%改善から大幅な飛躍。
- 商用化は5〜10年以内:IBMは自社製造ではなく外部パートナーとの提携による商用化を見込む。
- 業界標準化への期待:過去のナノシート技術が全主要ファウンドリに採用されたように、ナノスタックも次の主流技術になるとIBMは見ています。
AI半導体の進化は、今後のデータセンターのあり方を根本から変える可能性を秘めています。 IBMの次の一手に、引き続き注目です。
参考元: IBM claims world’s first sub-1 nanometer chip technology





