
AI企業と著作権の戦いが新局面へ#
Microsoftが著作権侵害を「意図的に誘発した」——NYTはそう主張し、訴状の修正を裁判所に申請しました。
この記事で分かること:
- NYTが訴状修正を求めた法的な背景
- Microsoftのスパコンに関する新たな主張の内容
- 「市場代替性」がこの訴訟のカギを握る理由
- Microsoft・OpenAI側の反論の要点
約6分で読めます(本文約3,000文字)
【結論】重要ポイント3選#
最高裁判例の変更が訴訟戦略を変えた 最高裁がCox Communications側を支持した判決により、「寄与侵害(contributory infringement)」を立証するには、相手が違法行為を意図的に誘発したことの証明が必要になりました。NYTはこの新基準に合わせて訴状を修正しています。
Microsoftのスパコンが新たな標的に NYTは、Microsoftが構築した専用スパコンがOpenAIの著作権侵害を可能にしただけでなく、NYT記事を「最高品質のジャーナリズム」として優先的に学習対象に選んだと主張しています。
ChatGPTの出力が「市場代替」の証拠に ユーザーがChatGPTを使いNYTの有料記事を実質的に無料で読める事例が発見されており、NYTはこれを市場損害の具体的証拠として提出しています。
この訴訟とは?基本的な経緯#
NYTは2023年、OpenAIとMicrosoftを提訴した最初の大手出版社です。
当初の主な主張は以下の通りです:
- ChatGPTがNYT記事を無断で学習データに使用した
- ChatGPTがNYT記事をほぼそのまま出力するケースがあった
- ChatGPTがNYT購読の「代替品」として機能し市場損害が生じた
- Wirecutter(NYT傘下メディア)のレビュー要約によりアフィリエイト収益が失われた
- AIモデルがNYTの名を騙った虚偽情報(ハルシネーション)を生成した
その後、ディスカバリー(証拠開示手続き)で新たな証拠が得られ、また最高裁の判例変更という法的環境の変化を踏まえ、NYTは訴状の修正を申請しました。
Microsoftのスパコンに関する新主張の詳細#
当初の訴状では、MicrosoftのスパコンはOpenAIへの「一般的なクラウドサービス提供」として言及されていました。
修正後の訴状では、主張が大きく踏み込んでいます:
- 目的が特定されている:そのスパコンはAIを著作権で保護された作品で無断学習させるために「明示的な目的」のもと設計・構築されたと主張
- NYT記事が優先された:インターネット全体を学習対象としつつ、「NYT記事を不均衡に多く含む」よう設計されていたと指摘
- 侵害の「手段」を提供した:スパコンの構築によりMicrosoftは、著作物を無断で収集する手段を積極的に提供したと主張
NYTは訴状の中でこう記しています:
「Microsoftはインターネット全体——NYT記事を不均衡に多く含むよう選別された——を使い、史上最強のLLM(大規模言語モデル)を訓練するために特別に設計した」
さらに、このスパコンで訓練されたLLMを自社製品全体に展開したことにより、Microsoftの時価総額が直近1年で1兆ドル増加したとも主張しています。
市場代替性の証拠:ChatGPT出力の実例#
NYTが最も重要視する証拠の一つが、ディスカバリーで得られたChatGPTのセッションログです。
具体的に確認された問題事例:
| 問題の種類 | 内容 |
|---|---|
| ペイウォール回避 | ユーザーが「次の段落を見せて」と繰り返し要求し、有料記事を実質無料で読めた |
| 自発的な記事出力 | 特別な操作なしにモデルが複数段落をそのまま出力するケースがあった |
| ハルシネーション | NYTが実際には報道していない内容をNYT記事として引用・捏造した |
ハルシネーションの具体例として訴状が挙げているのは:
- Bing Chatが実在する人物(モイラ・フォーブス氏)の虚偽の発言をNYT記事として引用
- ChatGPTがオレンジジュースとがんの関係を扱ったとする、実在しないNYT記事を「生成」した事例
NYTはこう述べています:
「ユーザーがNYTの報道内容を検索エンジンに問い合わせた際に返すべきは、無断コピーでも不正確な偽造品でもなく、記事へのリンクそのものだ」
なぜ重要か?法的・業界的な意義#
著作権の「寄与侵害」基準が変わった
最高裁がCox Communications対Sonyの訴訟でCox側を支持したことで、「寄与侵害」の立証基準が厳格化されました。 原告は今後、被告が違法行為を「意図的に誘発した」ことを証明しなければなりません。
NYTはこの変化に対応するため、Microsoftが単なるインフラ提供者ではなく、著作権侵害を積極的に誘発した主体であることを主張する構成に訴状を修正しています。
フェアユース(公正利用)の議論は決着していない
OpenAIは「AIの学習は疑いなくフェアユースだ」と主張しています。 一方で、これまでの判例ではフェアユースが認められたケースが「市場損害の立証失敗」によるものだった事例もあり、NYTが豊富な市場代替の証拠を持つこの訴訟では、その判断が変わる可能性があります。詳細は元記事を参照。
最悪のシナリオ:モデルの全削除も
NYTは永続的差止命令と大規模な損害賠償を求めており、仮にNYTが勝訴した場合、OpenAIとMicrosoftは学習済みモデルを削除し再構築を迫られる可能性もあると記事は指摘しています。
Microsoft・OpenAI側の反論#
両社はNYTの主張に真っ向から反論しています。
Microsoft広報の見解: 「修正訴状の申請は、他の最近の判決で示された不利な判例から原告が主張を守るための最後の手段だ」
OpenAI広報(ドリュー・プサテリ氏)の見解: 「我々のモデルはイノベーションを促進し、一般公開されたデータで訓練されており、フェアユースに基づいている」
OpenAIはまた、「ChatGPTはNYT購読の代替品ではない」と主張しており、その理由として「素材を異なる用途に変換している」という点を挙げています。
よくある質問(FAQ)#
Q. NYTはなぜ今、訴状を修正しているのですか? A. 最高裁が「寄与侵害」の立証基準を変更したためです。新基準に対応するため、Microsoftが著作権侵害を意図的に誘発したことを示す形に主張を組み直しました。
Q. Microsoftのスパコンは何が問題とされているのですか? A. NYTは、そのスパコンがOpenAIの著作権侵害を可能にする「手段」として意図的に設計・構築されたと主張しています。特にNYT記事が優先的に学習対象に選ばれたとされています。
Q. NYTは訴状修正で請求をすべて増やしたのですか? A. いいえ。NYTは修正と同時に、寄与侵害と商標希薄化に関する2つの請求を自ら取り下げています。請求を絞り込み、核心的な主張を強化する戦略を取っています。
Q. OpenAIは「フェアユース」を主張していますか? A. はい。OpenAIは著作物を使ったAI学習はフェアユースにあたると主張しています。ただし、市場代替の立証が争点となっており、フェアユースの判断は確定していません。
まとめ:押さえておくべき重要ポイント#
法的環境の変化が訴訟を動かした:最高裁の判例変更により、NYTはMicrosoftの「意図的な誘発」を具体的に立証する必要が生じ、訴状を修正しました。
スパコンが侵害の「共犯」として標的に:Microsoftが専用設計したスパコンが、NYT記事を優先した学習に使われたとする新たな主張が核心に据えられました。
ChatGPT出力がペイウォール代替として機能した証拠がある:ディスカバリーで得られたセッションログは、NYTにとって市場損害の有力な証拠となっています。
フェアユース論争はまだ終わっていない:OpenAIはフェアユースを主張するが、過去の判例では市場損害の有無が決め手となっており、本件は注目が集まります。
最終的にはモデルの削除・再構築を命じられる可能性もある:NYTが求める永続的差止命令が認められた場合、業界全体に波及する影響が生じ得ます。
この訴訟の行方はAI業界全体の著作権利用のあり方を左右します。最新の動向は元記事で継続的にご確認ください。
参考元: NYT slams Microsoft for building copyright-infringing supercomputer for OpenAI





