
GoogleがEU規制ゲームで一歩リード#
EUのデジタル市場法(DMA)をめぐる規制対応で、GoogleとAppleの戦略的な明暗が鮮明になった。Googleは競合AIへのAndroid開放を命じられたものの、2027年7月までの猶予期間を確保。一方、AppleはSiri AIをEU市場に投入できないまま、規制当局との対立が続いている。
EUがGoogleにAndroid開放を命令#
2026年7月16日、欧州委員会(EU規制の執行機関)は、GoogleがAI分野の競合他社に対し、自社のAIアシスタント「Gemini」と同等のシステム機能およびデータアクセスを提供するよう命じた。
この命令の根拠となっているのが**DMA(デジタル市場法)**だ。DMAは、市場で支配的な地位を持つ「ゲートキーパー」に指定されたプラットフォームに対し、自社サービスと同等のシステム・データへのアクセスを競合他社に提供することを義務付けている。
Googleにとって、この命令は表向き「敗北」に見えるかもしれない。同社はこうしたアクセス開放に対し長年抵抗してきたからだ。しかし実態は異なる。Googleは2027年7月まで、約1年間の猶予期間を獲得しており、その間もGeminiの拡張や、EUとの技術的な詳細交渉、競合他社がAndroidに接続する方法の形成を続けることができる。また、この決定を法廷で争う選択肢も残されている(ただし、The Vergeの取材に対しGoogleはコメントを拒否した)。
さらに重要なのは、GeminiはすでにAndroidに深く統合されており、多くのデバイスにデフォルトのAIアシスタントとしてプリインストールされている点だ。OpenAIやAnthropicといった競合がAndroidへの同等アクセスを得るまでの間、Googleは自社の優位性をさらに強固にすることができる。
AppleのSiri AI:EU市場に存在しない理由#
対照的なのがAppleの状況だ。Appleは先月、待望のSiri AIアシスタントを発表したが、DMAを理由にEUでの提供を見送ると明言した。
欧州委員会はAppleに対しても、サードパーティのAIアシスタントにSiri AIと同等のシステム・データアクセスを提供するよう求めた。Appleはこれに対し、「無責任であり、プライバシーとセキュリティ上の許容できないリスクをもたらす」と反論。18か月間の猶予と、段階的な相互運用性の導入を委員会に求めたが、この提案は却下された。
現時点でAppleは、Siri AIをEUにいつ、あるいは本当に提供するかについて、公式なスケジュールを示していない(The Vergeの取材にも回答していない)。
AppleはSiri AIのEU不提供を政治的なメッセージとしても活用してきた。WWDC 2026の基調講演の一部を割いてEU不提供の理由を説明し、「DMAによりSiri AIはiOS 27およびiPadOS 27でEU向けに遅延」というブログ記事を公開。さらにメディア向けのブリーフィングも実施した。なお、中国でのSiri AI不提供については、1文の注釈で触れるにとどまった。
なぜこの構図が重要なのか#
GoogleがAIアシスタントを先に市場に展開し、その後規制当局と交渉するという戦略を選んだ背景には、Geminiが同社のAI戦略の中核として長年存在し、製品エコシステム全体に広く組み込まれているという事情がある、とThe Vergeは指摘している。一方、AppleのSiri AIは比較的最近発表されたものであり、DMAの要件を製品設計段階で長年予見できたにもかかわらず、EU不提供という選択をした。
なお、両社が完全に対立しているわけではない点も見逃せない。GoogleとAppleはSiri AIを含むAppleのAI製品へのGemini統合で協力しており、水面下では引き続き連携している可能性もあると記事は指摘している。
まとめ#
現時点での状況を整理すると、GoogleはAndroidをDMAに準拠させるための1年間の猶予を確保しつつ、Geminiの展開を続けられる。AppleはこうしたEUとの交渉で同様の猶予を得られず、Siri AIのEU展開時期も不明なままだ。
筆者の見解: 規制対応においては、製品を先に市場に出して既成事実を作り、交渉力を持った状態でルール形成に関与するというGoogleのアプローチは、少なくとも今回に限っては有効だったと言えそうだ。一方で、EUという巨大市場でAI機能を提供できないAppleのコスト(ブランド・市場シェア両面)は無視できない。今後のEUとAppleの交渉の行方は、DMAがビッグテックのAI戦略に与える影響を測る上で重要な指標となるだろう。





