
クラウド業者が突然消えた——50TBの歴史的データが宙に浮く#
米国のPBS系列局「Nine PBS」が、クラウドストレージプロバイダーの廃業により約50TBもの貴重なデータへのアクセスを失い、データセンター運営会社「Iron Mountain Data Centers」を相手取った訴訟を起こした。公共放送業界の専門紙「Current」などが報じたこの事案は、クラウドサービス依存のリスクを改めて浮き彫りにしている。
何が起きたのか——事態の経緯#
Nine PBSはかつて、「Open Source Storage(OSS)」という会社にハードウェア・ソフトウェア・クラウドストレージサービスを委託していた。OSSはIron MountainのデンバーにあるデータセンターにNine PBSのデータを保管していた。
Nine PBSとOSSの直近の契約は3月6日に終了した。しかし2月の時点で契約更新を試みたところ、OSSからは一切の応答がなかった。契約上は終了後30日間はデータを取り出せるはずだったが、実際には契約満了と同時にアクセスが突然遮断された。
その後、Nine PBSはOSSがコロラド州の企業データベース上で「延滞(delinquent)」ステータスになっており、事業を停止していることを把握した。コロラド州の企業データベースによれば、OSSは2021年に設立され、現在も延滞状態のままだ。
OSSの資産を取得したとされるJames Tramel氏は一時、Iron MountainがNine PBSのデータを保有していると伝えたものの、その後「自分は詐欺に遭ってOSSを買わされたのであり、もはや同社とは無関係だ」と電話で告げて連絡を絶った。
なぜIron Mountainは渡さなかったのか#
Nine PBSはIron Mountainに対してデータの引き渡しを求めたが、Iron Mountainはこれを拒否した。その理由として、Iron MountainはあくまでOSSとの契約に基づいてデータセンターの物理インフラ(建物・ネットワーク接続・電力・環境制御など)を提供しているに過ぎず、データが保存されているサーバーやハードウェアはOSSの資産であるとしている。
Iron Mountainの広報担当者はArs Technicaに対し、「裁判所の命令なく第三者のハードウェアへの無断アクセスを許可すれば、データプライバシーの基本原則に違反し、OSSとの契約を破ることになり、OSSの他のクライアントの機密データを危険にさらす可能性がある」と述べた。
この主張には一定の合理性がある。データセンターのコロケーション(colocation)サービスとは、顧客が自前のサーバーを設置するためのスペースや電力などを提供するものであり、データセンター側がそのサーバーの中身にアクセスする権限を本来持たない仕組みだ。
一方でNine PBSは3月13日にIron Mountainへ書面を送り、データアクセスに関する「合理的なコストを負担する」意向を伝えていた。さらにセントルイス巡回裁判所で欠席判決を勝ち取り、Nine PBSにはデータへの「即時占有権」があり、OSSはデータを返還または新しいベンダーへの移行を促進しなければならないという判決を得ている。しかしそれでもIron Mountainは動かなかった。
失われかけているデータの重さ#
Nine PBSが取り戻そうとしているデータは、単なるファイルではない。COVID-19パンデミックの報道映像、イーストセントルイスの歴史記録、1993年の大洪水(The Great Flood of 1993)の映像など70年分にわたる1万1,000超のファイルが含まれており、訴訟ではそのデータの「大部分」が「唯一無二で代替不可能」なものだとされている。
裁判所の判断と今後の見通し#
先月、裁判官はIron Mountainに対してデータの削除・改変を禁じる仮処分を下した。そして今週の審理では、Iron Mountainはデータを保持する物理デバイスを引き渡さなければならないと裁判官が命じた。
ただし条件もある。Nine PBSは30日以内に、元OSS従業員など第三者の協力者を確保し、他のOSSクライアントのデータを共有・破損させることなくデータを取り出す方法を示さなければならない。現時点ではNine PBSは「協力を申し出ている」元OSS従業員と既にコンタクトを取っているという。データが暗号化されているなど問題が生じた場合には、改めて審理が開かれる予定で、両者は9月14日までに進捗を報告する義務がある。
Nine PBS VPのLeah Freeman氏は、「裁判所がアーカイブ素材の回収への道筋を示してくれたことを歓迎する。これらのアーカイブは地域の歴史の重要な一部であり、裁判所が承認したプロセスを通じてその保全と保護を確実にすることを楽しみにしている」とコメントしている。
まとめ#
この事案は、クラウドストレージサービス利用に伴うリスク管理の重要性を示す事例だ。Nine PBSがデータのバックアップを保有していたかどうか、また今後どのような対策を講じるかについては、Ars Technicaの取材時点では回答が得られておらず、詳細は元記事を参照されたい。
筆者の見解: クラウドサービス事業者の突然の廃業・連絡途絶は、法人・個人を問わず誰にでも起こりうる。本件は「データの実際の保管場所(物理インフラ)」と「データへのアクセス権を持つ事業者」が異なるという、クラウド・コロケーション構造の複雑さが問題を深刻化させた典型例と言える。重要データを外部サービスに委託する際には、契約終了時のデータ引き渡し条項の確認と、独立したバックアップ体制の整備が不可欠だと改めて痛感させられる事案だ。
出典: PBS station fears losing 50TB of data after being ghosted by cloud storage provider




