
スマートフォンが値上がりする本当の理由#
メモリ(RAM)コストの急騰が、スマートフォンをはじめとするテクノロジー製品の価格を押し上げている。この「メモリクライシス」は解消まで数年かかると見られており、消費者への影響は長期化する可能性がある。
何が起きているのか:「RAMageddon」の実態#
業界では今、「chipflation(チップフレーション)」や「RAMageddon(ラマゲドン)」とも呼ばれる深刻なメモリ不足が進行している。情報分析サービスのAlphaSenseによると、昨四半期だけで473件もの企業決算資料に「メモリ価格」「メモリ不足」という言葉が登場した。業界全体がこの問題に取り組んでいるにもかかわらず、解決の道筋はまだ見えていない。
AIがメモリ需要を爆発的に拡大#
メモリ不足の背景には複数の要因が絡み合っている。パンデミック期間中のPC・タブレット・スマホ需要の急増が落ち着き、メーカーが在庫過剰に陥ったことで各社は増産計画を縮小した。そこへ生成AIブームが到来し、当初の予想をはるかに超える規模でメモリ需要が膨らんだ。
AIデータセンターで使われる特殊なメモリ「HBM(High Bandwidth Memory:高帯域幅メモリ)」は、複数のチップを積み重ねて大量のデータを高速・高効率に処理できる。NvidiaやAMD、MetaやMicrosoftといった資金力のある企業がこのHBMを大量に必要とし、高値でも購入し続けている。
通常のスマホ向けRAMとは別物#
Counterpointのアナリスト、David Naranjo氏は「データセンターがRAMを消費しているとひと口に言っても、そのRAMは同じものではない」と指摘する。HBMは通常のDRAMより製造が難しいが、収益性ははるかに高い。さらに重要な点として、HBMは同量の通常DRAMを生産するのに比べて約3倍のウェーハ(シリコン円盤)が必要とMicronは試算しており、製造ラインの多くがHBM生産に割り当てられている。
3社寡占市場が価格高騰を加速#
メモリ市場は極めて寡占的な構造になっており、Counterpointによると2026年第2四半期時点で、Samsung(39%)、SK Hynix(26%)、Micron(25%)の3社で市場の約90%を占めている。この3社が限られた生産能力をAIインフラと一般向けデバイスに振り分けている状況だ。
AI向けの需要は、メモリメーカーにとって通常の消費者向け市場より魅力的だ。Samsungのメモリ担当エグゼクティブバイスプレジデントのJaejune Kim氏は同社の決算説明会で、将来の需要を確約できる顧客を優先的に確保していると発言している。
各社の利益率が過去最高水準に#
この市場構造の恩恵を最も受けているのはメモリメーカーだ。SK Hynixは直近四半期に過去最高の営業利益率76%(前年同期は41%)を記録。Micronの調整後粗利益率も過去最高の85%に達した。Samsungの半導体部門の利益は前年比で約250倍に膨らんでいる。
スマートフォン向けDRAM価格の衝撃的な上昇幅#
Counterpointのデータによると、スマートフォン向けDRAM価格は2026年第1四半期に前四半期比で約56%上昇し、第2四半期にはさらに約83%上昇した。具体的な数字として、スマートフォン向け16GB DRAMの価格は2025年第2四半期時点で約42ドルだったが、1年後の2026年第2四半期には約181ドルと、300%以上の値上がりとなった。
これはAppleが実際に支払う価格とは異なる可能性があるとCounterpointは指摘している(Appleはサプライヤーに対して強い交渉力を持つため)。しかしこの数字は、ハイエンドスマートフォンの部品コストがいかに劇的に変化したかを示している。
なぜすぐには解決しないのか#
MicronのCOO、Manish Bhatia氏はThe Vergeのインタビューで「ウェーハ生産能力をさらに増やす必要がある。これは業界にとって長年とは異なる課題だ」と語っている。技術革新だけでは需要増に追いつけなくなっており、巨大な新工場を建設する必要があるが、その建設には数年かかる。
また、AIの普及によって通常のDRAM需要も増加している。スマートフォンやPCで小型AIモデルをデバイス上で動作させるために、より高性能で大容量のメモリが必要になっているためだ。SK HynixのSong Hyun-jong社長は「AI向けメモリと従来型メモリが共に成長するという需要の構造変化が起きている」と述べている。
まとめ#
メモリ価格の高騰は、パンデミック後の需要変動、AI需要の爆発的拡大、そして3社による寡占市場という複合的な要因によって引き起こされている。Appleの新型iPhoneをはじめとする各種デバイスの価格上昇は、この「RAMageddon」の最も分かりやすい表れといえる。解決には新たな工場建設が不可欠だが、それには数年単位の時間がかかる見通しだ。消費者にとっては、当面の間、テクノロジー製品の値上がりと付き合い続ける必要があるだろう。
筆者の見解: AI産業の急成長がメモリ市場をここまで根本的に変えてしまったことは、半導体サプライチェーンの脆弱性を改めて浮き彫りにしている。「テクノロジーは安くなる」という長年の常識が覆されつつある今、この状況がどこまで長引くかは業界全体の課題だと感じる。
出典: The real reason your phone is getting more expensive (The Verge, Rani Molla, 2026年9月7日)





