↓ メインコンテンツへスキップ
  1. 記事一覧/

生きた人間の皮膚でAIを訓練——Outer Biosciencesの革新技術

·5 分
著者
Alicia
AI・IT・ハードウェアの最新ニュースを自動配信するテックブログです。
目次
サムネイル

生きた皮膚組織でAIを訓練する——Outer Biosciencesが挑む生物学の新フロンティア
#

通常なら手術後に廃棄される人間の皮膚組織を1ヶ月以上生存させ続け、そのデータでAIモデルを訓練する——そんな前例のないアプローチをとるスタートアップが、米国でひっそりと活動を続けていた。そのAI・バイオテック企業こそ、Outer Biosciencesだ。


Michael Polanskyとは何者か
#

OuterBiosciencesのCEOであるMichael Polanskyは、ミネソタ州出身。ハーバード大学で応用数学とコンピューターサイエンスを専攻し、2006年に卒業。その後、ヘッジファンドのBridgewaterAssociatesで3年間勤務した。

その後、シリコンバレーへの転身のきっかけとなったのは、Sean Parkerとの出会いだ。Polanskyは2009年にParkerと面会し、翌日にはBridgewaterを退職。サンフランシスコへ移住した。Founders Fundでプリンシパルを務めた後、Parkerのファミリーオフィスでビジネスや投資、慈善活動を担い、Parker Institute for Cancer Immunotherapy(がん免疫療法研究機関)の立ち上げにも関与した。同機関の執行役員は現在も務めている。

また、Polanskyは歌手Lady Gaga(本名:Stefani Germanotta)のパートナーとしても知られており、彼女はOuter Biosciencesの取締役にも名を連ねている。


技術の核心——生きた皮膚を1ヶ月維持する
#

Outer Biosciencesは2020年に、Polansky(CEO)、Kyung-Jin Jang(主任科学者)、Chris Hinojosa(CTO)、Stanley King(最高事業責任者)の4名によって共同創業された。

同社が着目したのは、生物学・化学分野のイノベーションがソフトウェアに比べて遅々として進まない根本的な理由だ。人体に直接実験することは倫理的に許されない。そのため科学者たちは動物モデルや簡略化した細胞培養、ラボで育てたオルガノイド(小型の臓器様構造体)を代替手段として使ってきたが、これらは本物の人体臓器の振る舞いを正確に再現できないという限界がある。

そこでOuter Biosciencesが選んだのは、主に美容整形手術後に廃棄されるはずの生きた人間の皮膚組織を活用するアプローチだ。組織の調達先は、NIH(米国立衛生研究所)および国立がん研究所から連邦資金を受けている「National Disease Research Interchange」と「Cooperative Human Tissue Network」という2つの非営利・商業バイオバンクおよびブローカーで、いずれも機関審査委員会(IRB)の監督下と文書化されたドナー同意のもとで運営されている。

Polanskyによれば、組織はすでに提供元組織によって匿名化(個人特定情報の除去)が済んだ状態で届く。同社はこれらの組織に対価として費用回収ベースの手数料を支払っており、組織を直接「購入」しているわけではないという。

業界標準では、体外に取り出した皮膚組織の生存期間は数日間にとどまる。急性毒性の検査には足りるが、コラーゲンのリモデリング、色素沈着の変化、バリア機能の修復といった数週間単位で進む生物学的プロセスを観察するには不十分だ。

Outer Biosciencesが開発した独自の維持システムは、組織に栄養を供給しながら代謝廃棄物を除去することで、最大1ヶ月間にわたって組織を生存させることに成功している。さらにPolanskyは、この組織が「初日のアーキテクチャーを保ち、表皮・間質・免疫関連の分子プログラムを維持している」と説明する。平たく言えば、30日後の組織が初日の組織と非常によく似た状態を保っているということだ(ただし完全に同一ではないとも言及している)。


具体的な活用例——日焼けの研究
#

この技術の活用例として挙げられているのが、UVB(紫外線B波)による日焼け研究だ。研究者たちは生きた皮膚組織にUVBダメージを与え、その後数週間にわたってストレス反応、炎症反応、回復に関連する生物学的変化を追跡することができる。Polanskyは、組織を「治癒させる」のではなく、傷害が起きる様子とその後の生物学的プロセスを時系列で観察するための情報収集が目的だと強調している。


なぜこのニュースが重要なのか
#

この取り組みが注目に値する理由は複数ある。

  • 倫理的な代替手段の確立: 人体への直接実験が不可能な中で、廃棄予定の組織を活用するという倫理的に許容されたアプローチを採用している。
  • 時間軸の拡大: 数日間しか観察できなかった生物学的プロセスを、最大1ヶ月単位で追跡できるようになる可能性がある。
  • AI×バイオの融合: 生きた組織から得られるデータをAIモデルの訓練に活用するという、ソフトウェアと生物学の融合アプローチは、創薬や皮膚科学の研究を加速させる潜在力を持つ。
  • 約2年をかけた準備: 組織を手術後「数時間以内」に受け取るためのパイプラインとプロトコル構築に2年を費やしたとPolanskyは述べており、単なるアイデアではなく着実な実装の積み重ねが背景にある。

まとめ
#

Outer Biosciencesは、廃棄予定の生きた人間の皮膚組織を最大1ヶ月維持し、そのデータをAIモデルの訓練に活用するという独自のアプローチで、生物学研究の根本的な制約に挑んでいる。CEOのMichael Polanskyは科学者ではなく実業家だが、がん免疫療法分野での10年以上の経験を基盤に、この領域に参入した。技術の詳細や商業化の具体的な進捗については、詳細は元記事を参照されたい。

筆者の見解: 生きた組織をここまで長期間維持しながらAI訓練データとして活用するという発想は、創薬・化粧品・皮膚科学の研究プロセスを根本から変える可能性を秘めている。バイオとAIの融合が加速する中で、Outer Biosciencesのアプローチは今後の業界標準に影響を与えうる先駆的な試みといえる。


出典: Michael Polansky is training an AI model on skin that’s still alive

関連記事