
史上最大のロケットが初めて軌道へ#
SpaceXの大型ロケット「Starship」が第14回飛行テストにおいて、初めて低軌道への到達に成功した。さらに今回は次世代ブロードバンド衛星「Starlink V3」26基の軌道上への展開も達成し、宇宙開発の歴史において重要なマイルストーンとなった。
フライト14の詳細:劇的な月曜の朝#
打ち上げから軌道投入まで#
2026年9月のある月曜日、現地時間午前7時49分(EDT午前8時49分)、テキサス州スターベースのSpaceX専用宇宙港から、Starshipは33基のメタン燃焼式Raptorエンジンを全力稼働させて打ち上げられた。この際に発生した推力は最大1,800万ポンドに達し、全高407フィート(約124メートル)の巨体を空へ押し上げた。
ロケットはテキサス南部から東方向へ飛行し、音速を突破して成層圏へ到達。その後、1段目にあたるSuper Heavyブースターが上段ステージから切り離された。Super Heavyは高高度でUターンを行い、テキサス沿岸へ向けて推力飛行を再開。数分後、メキシコ湾のスターベース沖に制御された状態で着水(スプラッシュダウン)した。
上段ステージは単独で上昇を続け、飛行開始から約8分後にRaptorエンジンをシャットダウン。ここまでは従来のテスト飛行と同様の軌跡だった。
エンジントラブルと「軌道投入」判断の舞台裏#
今回のフライトでは複数のエンジン異常が発生した。上段ステージの6基のRaptorエンジンのうち1基が上昇中に早期停止し、残り5基がより長く燃焼して補償した。また、Super Heavyブースターの33基のうち2基も、打ち上げ時と帰還時にそれぞれ1基ずつ停止する事態が確認された。
こうした状況を受け、SpaceXのミッション管理チームは軌道投入ための再点火を実施するかどうか、慎重に判断を検討した。SpaceXのコメンテーターであるDan Huot氏は当初、軌道投入バーンを中止する方向で進んでいると報告したほどだ。
しかしSpaceXは最終的に軌道投入を決断。理由としてHuot氏は「一度軌道に入ったら確実に脱出できるコアシステムに強い自信が持てる場合にのみ進むことにしていた」と述べている。停止したエンジンは、軌道投入と脱軌道バーンに必要なエンジンとは別のものだったため、軌道飛行が承認された。
選ばれたRaptorエンジンは19秒間の再点火を完璧に成功させ、Starshipに時速約204マイル(全体速度の約1%強)を追加。これにより高度約171マイル(約276キロメートル)の安定した低軌道に到達した。
次世代Starlink V3衛星の初展開#
Falcon 9では運べない大型衛星#
軌道到達後、ミッションはStarlink V3衛星の展開フェーズへと移行した。Starlink V3はSpaceXが2019年以来Falcon 9ロケットで打ち上げてきた旧来世代の衛星より大幅に大型化されており、Falcon 9のフェアリング(衛星を覆う鼻先部分)には物理的に収まらない。このため、Starshipでのみ打ち上げが可能な衛星だ。
各衛星の打ち上げ時の重量は約2メトリックトン(約4,400ポンド)で、より大きな太陽光発電パネルと改良されたアンテナを搭載している。
10倍のネットワーク容量#
SpaceXによると、Starlink V3はそれぞれ1Tbps(テラビット毎秒)のネットワーク容量をStarlink網に追加できるとされており、Falcon 9で打ち上げる旧世代衛星の10倍に相当する。今後のStarshipは1回のフライトで最大60基のStarlink V3を軌道に投入できる見込みだ。
独特な「PEZディスペンサー式」展開システム#
26基の衛星は折り畳まれた状態でStarshipの貨物ベイに収納されており、滑車とケーブルによるシステムを使って1基ずつ宇宙空間へ放出された。SpaceXはこれをキャンディーを1粒ずつ押し出す「PEZディスペンサー」に例えている。SpaceXの衛星チームは展開後、全26基との通信確立を確認した。
今後のStarlink展開への影響#
今回打ち上げられた衛星は、打ち上げ時の安全規制(人口密集地上空の飛行制限)により、赤道から南北約30度の範囲の低傾斜軌道に投入された。SpaceXは今後、フロリダ州やルイジアナ州の新打ち上げ施設の稼働に伴い、より高い軌道傾斜角での打ち上げも計画しているとのことだ。
Starlink V3はネットワーク容量やユーザー速度の大幅な向上に加え、端末への直接接続(ダイレクト・トゥ・デバイス)機能の改善、さらには米軍向けのStarshieldサービスへの将来的な活用も想定されている。
なぜこのニュースが重要なのか#
今回のフライトが持つ意義は複数ある。まず、Starshipが初めて低軌道に到達したという事実そのものが、これまでのすべての試験飛行の積み重ねを結実させるものだ。次に、Falcon 9では物理的に不可能だったStarlink V3の本格的な軌道展開が初めて実現した点も大きい。SpaceXはすでにケープカナベラルでのStarlink向けFalcon 9打ち上げをスケジュールから外しており、Starshipへの移行が着実に進んでいることがわかる。
まとめ#
Starship第14回飛行テストは、複数のエンジン異常というトラブルを乗り越えながらも、初の低軌道到達とStarlink V3衛星26基の展開という2つの重要な目標を達成した。1回のフライトで最大60基を投入できる将来的な可能性も含め、Starshipは次世代Starlinkネットワークの中核インフラとしての役割を担い始めた。
筆者の見解: エンジン故障が複数発生しながらも軌道投入を安全に判断し成功させたことは、SpaceXのリアルタイムリスク評価能力の成熟を示していると感じる。今後の高傾斜軌道への展開や新打ち上げ施設の稼働がどのペースで進むか、引き続き注目したい。
出典: SpaceX’s Starship goes orbital, deploying first next-gen Starlinks





